#05 お母さんに服を買いに
ふり返りトーク#5
けら 洋服のことはずっとコンプレックスだったなー。
高校は私服だったけど、70年代後半の練馬では、かろうじてそれほどでもなかったの。
大学に入ったころから、オシャレな人が気になりだして、当然おこづかいはもらえないから、ロッテリアとかでアルバイトしてたよ。
オット 世の中は、JJ、ポパイだったもんね。
けら 私は、自分の服装が恥ずかしくて。ユニクロとかもないし、若い人が安く洋服を買えるお店なんてないの。池袋のキンカ堂で、安い生地を買って、スカート手作りしてた。
オット 「あたしンち」に描いたね、その話。みかんが、記者の人にのせられちゃうやつ。
けら 「若いって恥ずかしい!」っていう話ね……ともかく決定的にセンスがないわけよ。オシャレな友達は、親からして、東京育ちだったりして、根っから洗練されてる。どう努力しても追いつけないんだよね。私なんか、丸井が怖くって!
オット 怖かった、怖かった。西武とか、近寄れなかったよ。
けら DCブランドの時代だし、オシャレするなら丸井、って思って、勇気をふりしぼって行くじゃん?
で、怖い店員さんに負けて、ジャケット3万とかさ!当時のバイト、380円の時給だったけど、コツコツ貯めたお金はたいて買ってさ。そのジャケットが、着るとぜんぜん浮いちゃって、使えない……。
オット ……わかるよ。
けら だからマンガ家になって、お金が入るようになったら、まず服を買ったね。「服装の偏差値50」までは行きたかった。
知ってる漫画家さんたちは、印税でマンションを買ってたけど、私はお洋服。でも当時は時間もないし、脊髄反射で買っちゃうから、いくら買ってもオシャレにならない……。
オット それも描いたなー「買ったぞー」って帰ってきては、鏡の前で「・・でも、ちょっちダサいのはなぜ?」って笑(『おきらくミセスの婦人くらぶ〜』)。
けら 私たち、子供も家もなくて、時間もぜんぜんなかったけど、仕事の合間にヨーロッパで、お洋服屋さん巡りしたね。
二人とも、全然オシャレじゃないんだけど、けっこうハマった。結果、ぜんぜんオシャレになってないんだけど、なにか大きな宝を得た感じがしたよ。
オット コンプレックス解消だね。
けら けら うん。で、その後、私は服はすごく好きだけど、オシャレはそんなに好きじゃない、ということがわかった(笑)。
モードとか、着飾ることが好きなんじゃなく、布とか手仕事が好きなのね。
まぁ、なんにしても、長年ずっと同じ(変な)服を着てるお母さんに、いいお洋服を選んであげるくらいの力はついたし、旅先での実用性もわかるので、私が揃えてあげることにしたんだ。実はお母さんが、お洋服好きなことも知ってるしね。
(つづく)