ふり返りトーク#6

けら 旅行前は、マンガの描きためを、しなきゃいけないわけです。

オット 連載は日曜版の「あたしンち」だけだったから、描きため1本できれば一週間休める。3本描ければ、まるまる三週間休めるはずが……。

けら 描けない。

オット (笑)描けなかったね。週に1本、面白いのを描くだけで、もうハードルが高い高い。

けら 毎週「……命ばかりは、お助けください(泣)」っていうところまで追いつめられて、一週間めいっぱい使ってやっと1本、ってかんじでやってたもんね。

オット でさ、ぼくは、この主人公が「描きためしんどい」ってなって、お母さんの顔を思い浮かべるところからの流れが、すごく好きなんだ。

けら え? どういうところが?

オット 絶体絶命のピンチで、想像のお母さんが「いいよ、いいよ」「はじめから行けると思ってなかったもん」って言うじゃない?

でも、そういうお母さんだからこそ、娘は「人生、夢みたいなことがおこるんだよ」って言いたいわけよ。お母さんは、まだ旅行の意味がぜんぜん分かってないし、娘も「自己満足なのかな……」って心が揺れるんだけど。

あなたは、人生上のラッキーがあって、ここまで来れた。でも、二段ロケットみたいなもんで、あるところまでは、お母さんといっしょに来たわけじゃない? だから、自分が見ることができた、その先の景色を見せたい。せめて、自分が好きな服を買えるようになってうれしかった気持ちを、お母さんにも知ってほしいんだよ。

けら そうだったのかな? 自分じゃ、もうわからなくなってしまったけど(笑)。

オット 作品の上ではそう描かれてる、っていう話(笑)。

けら 少し話はちがうけど「お母さんに親孝行」っていうと、よくほめられたなあ。

オット そうそう、イタリアでもね。「こちら、お母さん?」って聞かれて「はい、妻の母です」って答えると「まあ〜〜〜、いいことねえ〜〜〜〜〜」って。

けら とくに、年輩の人にうける。

オット なんか「おめでたい」ものを見た、みたいな反応だったよね(笑)

(つづく)